「若いうちにしていてよかったこと（しておくべきだったこと）は？」といった類の記事やスレッドを見ていると、高頻度で目にするのが「歯の健康を保つこと」だ。
確かに永久歯は一度抜けたら二度と新しく生えてくることはないし、最期までできる限り自分の歯で好きなものを食べたいものな、と記事を見ながら漠然と思っていた。
ところで、私は幼少期から虫歯がまったく出来ない子どもだった。定期検診でも「虫歯ゼロですね」「歯磨きできていますね」と難なくパスしてきたもので、大学入学時に受けた定期検診でも同じように問題ナシとして処理された。
そのせいだろうか。「自分は虫歯ができにくい健康優良児なのだ」と謎の自信がついていた私は、大学での検診以降、必要ないだろうと歯医者さんに全く行っていなかった。もし歯が痛くなったら行こうくらいの心持ちで。なんなら日々の歯の手入れも今思うととんでもなく雑だった。磨き方も雑だし、フロスなども使わない。昼は大学で食べるので、昼食後は歯磨きをしない。朝寝坊したら朝も磨かない。などなど、優良児とは程遠い態度で生きていた。
今年の7月ごろ、左の奥歯がずきずきと痛むことに気がついた。実は高校三年生の頃にも右奥歯に同じような痛みがあり、「親知らず」と診断されたことがあった。受験を控えていたため抜歯せずに薬で痛みを抑えていたらそのうち痛くなくなったので放置していたのだ（ダメ）。その痛みがぶりかえしたのかと呑気に思っていた。とはいえもう少しで日常生活に支障をきたしそうなレベルだったので、意を決してウン年ぶりに歯医者へ行くことを決めたのだった。
私のレントゲン写真と口内を一通り見た先生（とってもやさしい）は、ちょっと困ったようにうーんと唸った。「白湯さん、痛いのは親知らずのせいではありませんよ。親知らずは歯茎の中に埋まっていて、悪さはしてないように思われます。」「痛みの原因は食いしばりですね。食いしばりすぎて歯にヒビ（！）が入ってしまっています。」「あと虫歯（！！）も結構散らばって出来ています。」
なんと。歯にヒビ。そんなことがあるのか。それにこの数年ですっかり虫歯もできてしまっていたらしい。「親知らずですね」という答えを勝手に期待していたので、ショックだった。帰宅後自分の奥歯を鏡でよくよく見てみたら、左右上下の奥歯（計四本）に、タテ線、すなわちヒビがくっきりと入っているのが分かった（割れているわけではない）。さすがにすごくショック。今までそんな異常事態に気がついていなかったのも尚のことショックだ。
歯型を取って（冷たいピンクの柔らかい粘土みたいなものを口内につっこまれ、嘔吐きそうになった。なにあれ？）食いしばり防止のマウスピース（ナイトガード）を作ってもらった。あれをつけると高確率で悪夢とまではいかずとも不快な夢を見るので正直つけたくないが、歯が割れちゃたまったものではないので致し方ない。ズキズキ痛んだり冷たいものが染みたりして辛いのだが、対処法はやはり「痛み止めを服用する」「マウスピースで悪化を防ぐ」くらいしかないらしい。ヒビが入った歯、復元不可。
さらにしんどかったのが、虫歯の治療だ。今回の歯の痛みは食いしばりで傷んだところのみで、虫歯が原因の歯痛はなかった。神経に到達するほど悪化する前に気づけたので、そこは本当によかった。しかし場所が多い！なんと9カ所ほども虫歯が出来ていた。いままで虫歯なんてひとつもなかっただけに、とてもショックだった。一気にすべて治療することは不可能なので、週一回の通院を計7回ほどかけて治療した（近くの場所にできているものは同じ日に治療してもらえた）。長すぎて途中で悲しくなってきたが、先生がめちゃくちゃ優しいので最後までちゃんと通った。おこらないでくれてありがとう！
これらの経験を通して学んだことは、「日々の歯の手入れを決して怠るな」である。
虫歯治療はとにかくお金がかかる。いくら保険適用といえど、1回2000円前後の治療を毎週すると流石に大変だし、さらに虫歯が進行していた場合はもっとかかってしまう。それに、「こんなに虫歯があったなんて…」と悲しくなる。定期検診に行けばこんな思いをしなくて済むのだ。
また、「歯のダメージは体の他の場所にも響く」のは本当なのだとも学んだ。私の場合、なぜか左の肩と首が異様に凝る、というか痛かった（右はそうでもない）のだが、食いしばりを少し改善したらかなりマシになった。
数ヶ月に及ぶ虫歯治療の通院に私はすっかり懲りてしまったので、以降は歯磨きには手を抜かずしっかりとケアするようになった。歯科衛生士さんに指導された磨き方で入念に磨き（歯周ポケットに汚れを溜めないようにブラシをナナメ45度にして磨くのがポイント）デンタルフロス（指巻きタイプのものを始めて買った）も使う。出先には歯ブラシを携帯するようになったし、就寝前に…などではなく食後にちゃんと磨くようになった（間食もなくなるので一石二鳥だった）。余談だけど歯科衛生士さんってめちゃくちゃ優しくない？返事してただけなのにしっかりしてるね流石だねと褒められ、普通に処置受けてただけなのに頑張ってくれてありがとう！と言われた。赤ちゃんになったのかと思った。
きちんと歯のお手入れをしている人達にとっては当たり前のことかもしれないが、いままで手入れが雑だった私にとってはこれは大きな変化なのだ。
もしこの記事を読んでいる方で「しばらく歯の検診に行っていない」という方がいれば、是非行ってほしい。気づかないほどの小さな虫歯ができているかもしれないし、無意識のうちに私のように食いしばりで歯を傷めているかもしれない。
私のヒビが入ってしまった奥歯のように、痛みを自覚してからでは手遅れだから。
